フォンティナ山のチーズ ―フォンティナ―

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イタリアはアオスタ渓谷、アルプスの眼下に険しく切り立つ山間の場所で夏の間に放牧を行い、牛を自由に放し飼いされて育てます。
この地はフランスとスイスの空気を混ぜ合わせた場所ゆえにチーズ作りも“山のチーズ”という独特で限られた手法で行われています。
使用される牛はヴァッレ・ダオスタ種の牛ホルスタイン系の山牛。 この牛は骨太でありながら足腰がしっかりして、ミルクの濃さも脂肪分やたんぱく質が多いので十分にあります。
この牛が食すものは春先には新芽、夏場には高山植物の花までたべます。 その豊かな牧草の栄養のため濃厚であり、かつすっきりとした味わいが特徴です。
山の牛乳が高級なのは放牧に気を使うことと夏の間にしかその地にいられずいったん山から下りなければならないという苦労があるからです。
その独特の乳をつかって通常のハード系のチーズを作っていきます。
さらにチーズを作る際の決め手が塩水に古いチーズの外皮を溶かし込んだ「モルジュ液」と呼ばれる手製の洗浄液で丁寧に拭っていくという工程を繰り返すのです。
まるでウォッシュタイプのチーズですが、その濃度や拭き方がウォッシュのそれとは異なりますし乳酸菌のスターターが入っている分風味がまろやかになっていきます。
四か月間、保管中にチーズの内部に偏りがでないよう天地をかえる作業をしながら、熟成をまちます。
特に6/15~9/29の間の100日間で作られるチーズは気候の面と春先から出始めた新芽の栄養をとった牛の乳のため俄然うまみが出るのです。
香りが大分ナッツっぽいですし甘みも感じます。
形状として中くらいの楕円形のチーズになりますが、外皮の上に専用の印刷が直にされています。
それゆえにすぐに『フォンティナ』チーズだとわかります。
●フォンティナの料理
さて、このチーズを一躍有名にした料理があります。
まずは、子牛ロースのヴァッレダオスタ風というカツレツです。
仔牛にチーズを挟み込みパン粉をまぶしてソテーする至ってシンプルな料理ですが、この地域の仔牛のうまさとやはり同郷のチーズの愛称はばっちりでどの人も観光に訪れたら食すほどです。
そしてなんといっても、イタリアの「フォンドゥータ」というイタリア版フォンデュ料理です。
牛乳・卵黄・バターを使うので白ワインの出番はありません。
もともとチーズフォンデュは残ったチーズを混ぜ合わせるというやり方がスイスでは定番です。
しかし、チーズそのものだけを溶かして料理にしてしますと確実に鍋が焦げてしまいます。 水では脂肪分と相性もよくないですし、薄くなるばかです。
そこで風味、パンチ、コクとを十分に引き出させる方法でスイスではワインを入れたわけです。
イタリアのフォンデュはそのワインすら使いません。
作り方…
一旦フォンティナを牛乳につけて柔らかくするということから始めます。 牛乳を使うことでよりチーズの濃さを強調するのです。
柔らかくなったら焦げないためにいったん取り出し、バターをいれなめらかにし、次に卵の黄身を溶いて流し込みます。この時点で卵スープになりますが、最後にチーズを入れるとそのチーズとうまく反応しどろどろになるのです。
このフォンデュは今ではイタリア料理としても有名になりました。
●フォンティナと似たチーズ
また同じ製法、同じ種の牛でつくってもこのヴァッレ・ダオスタの渓谷以外で作られたものは名前が異なります。 DOPというイタリアで推奨される承認制度があるからです。
これは生産者やブランドを守るために政府が公認するもので、その地域や製造法を踏襲していなければ名前が語れないのです。
フォンティナと似たチーズに『フォンタル』があります。
そもそもこのフォンティナは、昔はフランスの国王制がひかれたとき、サヴォワ地方などと同じサヴォイア公国だったので食べ物の文化が似ていました。
当然作るものも似ていますし、チーズにおいては製法が同じになるのです。
その他の「『アボンダンス』や『ラクレット』というチーズもみな同じ製法で作られた後に、DOPが生まれて名前が変わってしまったということです。
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