紀元前から作られているギリシャのチーズ ―フェタチーズ―

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●フェタチーズができるまで
チーズづくりに適している環境で一番重要であることは、家畜としている牛類から乳がたくさんでるかどうかです。
次に重要なことといえば安心安全基準に満たしているかどうかになります。 しかし、この二番目については近代の工業・産業の発展と人口の増加による、人道的な立場から考えられたにすぎません。
かつて一つ一つの生産は作れるか作れないかだけの問題でした。 作るつくらないということは、古代の文明においては生きるか死ぬかの次元でもあったのです。
この時代に作られたまさに生きるために必要であったチーズといえば、『フェタ』が有名です。
フェタチーズはギリシャで生まれました。
そのギリシャでは土壌の要因も含め必然的に発生したものだったのです。
牛尾数よりも羊の数が多いギリシャにあたって、牛は神の化身ともいわれて、また怪物として(ミノタウルス)あがめられていました。
ですから牛を使った食材は皆無だったのです。
山羊と羊の方がより一般的でした。
丁度、ペルシア帝国やオスマン帝国の支配が中近東からやってきたのでその食文化も伝播されて山羊や羊を利用することが必須になったのです。
ギリシャは砂漠地帯よりは過ごしやすい気候、しかし雨の降る日はいたって少ない。
ゆえに乾燥している場所であることはそれだけ人間のミネラル分を消失させます。
塩気の強い食事はもとより、適度に塩分を採れるように開発されたといえるチーズがそこには必要だったわけです。
そしてすぐにエネルギーとして吸収される必要性が大事だったのです。
山羊・羊の乳を飲むばかりではエネルギーは満たされません。
この乳のパワーを十分凝縮したもの、それがチーズです。
山羊や羊の乳は成分表を見てもわかるように、牛の乳よりも摂取時の値で消化率が高く、鉄や銅の吸収よい。また、貧血予防効果もあるばかりか、さらに脂肪吸収や体重増加まで見られるといった効果があるのです。
古代人はそのよさを身をもって体験していたがために惜しげもなくチーズにまわしたのです。
しかし、現在の熟成方のチーズのように寝かせるということはしません。
寝かしていたら腐ってしまうからです。
そして乾燥気候で欲するミネラル補給に間に合いません。
短期で発酵させて熟成させられる作り方が求められたのです。
さて、このチーズが誕生したのは紀元前9世紀です。
しかしながら、この時代より前は、フェタに必要な塩はギリシャにはありませんでした。 チーズを作ることはできていても塩がないゆえにフェタはまだ誕生していませんでした。 それはヨーグルトの延長でしかなかったのです。 いわば水分補給です。
それでもフレッシュチーズは当時でもつくられていました。
8世紀に書かれたホメロス作の叙事詩オデュッセイアーの中に出てくるチーズを作るくだりにそのシンプルなレシピがありました。
フェタチーズの原形でギリシャの周辺でも作られるフレッシュチーズの類です。
いまでいう『パニール』、トルコの『ベヤズ・ペイニル』、キプロスの『ハルーミ』、ブルガリアの『シレネ』、ルーマニアの『ブルーンザ』、モルダビアの『ブリンザ』などとどうような日持ちのしないチーズです。
これは塩を使っていないためにフェタとは一線を画しています。
このフェタチーズの原形は100年の月日をへてようやく変化を生むようになったのです。
塩をもっていたのは今で言うオーストリアです。 ここからの流出を可能にしたのが貿易だったのです。
ハルシュタットがアルプス以北と地中海とを結ぶ「塩の道」の要衝であったことは有名で、イベリア半島でギリシア人とフェニキア人の交易が始まりました。フェニキア人との貿易によって塩が入りようやくフェタの誕生となったのです。
●AOP
交易が栄えれば土産は必須です。
日持ちしないフレッシュチーズでは土産になりません。
このフェタが栄えてからは隣国でも手にはいりましたし、同様にして作ることも多くなりました。
特に地中海地域ではレモンやライムが豊富であったために攪拌時にそれを使って乳を凝固させるすべを身につけたのです。 おかげでバラエティーに富んだフェタづくりが盛んになりました。
バルカン半島や中東地方を通じて、やがてデンマーク、ドイツなどでも生産がなされるようになったのです。
現在のところ『フェタチーズ』という名称はギリシャに限るという制度があります。 AOPという原産地呼称統制、簡単に言えばチーズの特許です。 これに登録されたのは2002年でした。。
いまでこそこのフェタチーズは塩気が薄く食べやすくなったものへと変化してきましたが、オリジナルは匂いもかなりチーズ臭くなります。冷蔵庫の中に入れてしまうと、冷蔵庫中その匂いが染みつくほどのにおいです。
塩水の力が自然と働くためにその保存と熟成の期間発酵変化し匂いの元を形成するのです。
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