小説を読んでいると、ごくたまに『心の中にグサッとくる台詞』に出会います。もちろん毎回毎回、そんなピリ辛いスパイスのように頭の中に残る言葉には出会えません。しかしながら確かに心の中に残る台詞が在るのは事実です。
無論、小説だけではなく、音楽や映画、ドラマなどでも出会う事はありますが、小説は言葉で勝負している分、グサッとくる確率がかなり高いです。では一体なにが原因で心の中に残るのでしょう。
今回はそんな疑問を解消すべく、小説を読んでいてグサッときた台詞を考察していきたいです。グサッときた台詞をあげる事で、どういった時に人間は感動するのか、その秘密が明かせたらなあと思います。では始めていきましょう。
目次
麻雀放浪記(四)番外編、阿佐田哲也著、角川文庫
「おのれがいたずらしたんだから、恨むなァおのれしかねえが、俺はおのれも恨んじゃおらん」
個人的な嗜好ですが私は麻雀が好きです。麻雀漫画を描いている漫画家さんのところでアシスタントをした経験も持っています。そんな私の心の中心にずっと残っている台詞。阿佐田哲也さんの麻雀放浪記シリーズからのエントリーです。
親指のトムというあだ名を持つ李億春が留置所でドサ健にいう言葉。李という人間はギャンブルに命を捧げており、ある種の狂気すら感じさせるギャンブラーです。勝負という形でしか他人と拘われない悲しき人間の愚直さと勇ましさが混在するとても素晴らしい台詞です。好きな事で生きていく。
一見真理にも思える生き方ですが、普通の人には難しい生き方です。この台詞のような狂気を伴った人間以外には難しい生き方ではないでしょうか。麻雀を好きな方は是非、この李億春の生き様を堪能して下さい。きっと身震いがするでしょう。
町でいちばんの美女、チャールズ・ブコウスキー著、新潮社文庫
「詩はごくごく短いあいだに、ものすごく多くのことを語る。散文は大したことはなにもいわず、量ばかりかさむ」
詩とはなにか。一級と呼ばれる詩とはなにかをよく示す台詞。詩はとても短い間に様々な事を語ってくれるものであり、文章は長ければいいというものではないと教えてくれます。
この台詞は『町でいちばんの美女』という短編集の中で一作『あるアンダーグランド新聞の誕生と死』の中でブコウスキーが「コラムを書いて欲しい」と頼まれた時に「俺は詩人だよ」と答えます。続けて詩とコラムの違いが分からない輩に対して答えたのがこの台詞。ブコウスキーらしい一級のジョークにも感じます。
ともかく散文を読むよりは一級の詩を読む方がどれだけ勉強になる事か。もちろん書く方も散文で10万文字書くよりも数行しかない詩を書く方が、どれだけ労力を使い、どれだけ苦労するか……、文章を書いているとよくそう思います。ブコウスキーはとてもいい作家さんなので是非ご一読を。
実録・外道の条件、町田康著、角川文庫
「雨、降ってきましたね」と、意外なほど大きな声が出た。
こちらの作品は町田康さん本人が体験したであろう実録的な作りになっています。そしてこの台詞は「ロックの泥水」という短編の中で語られます。とても勢いのある女社長が語る言葉です。もう本当に読んでいて「いるよ、こんなやつ」と今ならば晒されるほどの極悪非道ぶりです。
むしろ極悪非道すぎて、ある種の清々しさほど感じるほどです。そんな中語られるこの言葉は秀逸すぎて笑うしかないです。他の作品も業界の闇を感じさせる作品ばかりなので読んでいて飽きません。
作品自体はほぼ20年前の作品になりますが、今読んでも十分に面白いです。業界のあるあるネタばかりなので、もし仮に貴方がプロ作家を目指すのであれば目を通しておいた方が無難な作品となっています。未読の方は是非。
銀河ヒッチハイク・ガイド、ダグラス・アダムス著、河出書房新社
主要な銀河文明の歴史には例外なく、それぞれに明確に異なる三つの段階が認められるようである。すなわち、生存、疑問、洗練の三段階であるが、これはまた、いかに、なぜ、どこの段階とも呼ばれている。 たとえば、第一段階に特徴的な問いは「いかにして食うか」であり、第二段階の問いは「なぜ食うのか」であり、第三段階の問いは「どこでランチをとろうか」である。
この作品は本作内で登場する「銀河ヒッチハイク・ガイド」と呼ばれる、金欠ヒッチハイカーが1日、数アルタイル・ドルもかけずに宇宙を見て回れるようにと書かれた情報満載の銀河ヒッチハイク・ガイドの中での一文です。
この小説に関しては、どうあがいても、どう解釈しても、結局は「42」という数に落ち着くので、敢えて詳しくは説明しません。「42」とは乱暴に言ってしまえば「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」となりますが、意味が分からない人は一度Googleで検索してみる事をおすすめします。
SF小説家であるダグラス・アダムスがなにを考えていたのか、とてもよく理解できるでしょう。ともかく宇宙の根源とはなにか知りたい方には必読の書です。
ジャンキー、ウィリアム・バロウズ著、河出書房新社
麻薬をやめるということは、一つの生き方を放棄することだ。
麻薬とは麻薬で在る。そんな言葉が聞こえてきそうな台詞です。もちろんウィリアム・バロウズは伝説のジャンキーであり、麻薬を止められない作家さんです。この作品は筆者が麻薬から得た知見を述べ立てている作品なんですが、どの論理も医療的に考えれば「個人的な感想」の域をでないものばかりです。
ただしウィリアム・バロウズという作家さんの語り口はとても論理的かつ理知的で麻薬がいつの時代も人を虜にする理由や止められない理由には唸らされます。しかしながら逆説的に麻薬って怖いとか、止めておいた方が無難だなとも感じさせてくれます。
ある意味麻薬撲滅に一助になる作品ではないでしょうか。麻薬とはなんぞやと疑問に感じている諸氏がおられましたら是非ご一読を。
まとめ
ここまで書いて思いました。やはり心に刺さる台詞とは物語の集大成であり、冒頭から導入、そして展開があり、最後にバシッと格好いい台詞が生きてくるのではないでしょうか。もちろん台詞自体もイカした一文である必要性があります。
しかしそれ以上に今までどう書いてきたが最重要事項だと感じました。無論、格好いいキャラクターが格好いい台詞を言うというのもまた重要なファクターだと思われます。
もし仮にこの記事を読んだ諸氏が格好いい台詞、または心に残る台詞を書きたいと考えたならばプロットの段階から台詞を仕込む必要性があるのではないでしょうか。私自身はそう感じたとまとめておきます。
ではまたなにかの記事で機会があればお会いできれば幸いです。草々。
【小説】私的に好きな一節・フレーズを紹介!共感できますか? 、了。
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