目次
スイスを代表する二つの大型チーズ

anaterate / Pixabay
スイスを代表するチーズに『エメンタール』があります。 そのチーズの内部にはチーズアイと呼ばれる発酵時に出されるガスによって生じる穴があります。
同じような製法で作られているチーズに『グリュイエール』でがあります。 先ほどのチーズとほぼ同じ大きさで、とてもよく似ていますが、大きく違うところでは、こちらには穴がないのです。
エメンタール
このチーズが生まれた町、スイスのエメンタールは、今では観光地としてすっかり工業化されてしまいました。
それでも自然が手つかずで残り、また放牧も昔ながらの方法で行っていることがこのチーズ作りには欠かせません。
場所はベルンの東に広がるエンメ川流域の 丘陵地帯エメンタールという地域です。 それはまさに『エンメンタール美わし』のタイトルで歌われるとおりです。
ブラウンスイスやホルスタインがこの山の傾斜で草を食べています。 放牧に適しているとはいいがたい気候であるにもかかわらず、春から夏の間は一気に牛飼いの姿が目に留まります。
15世紀ごろまではごく当たり前の作業として女性がチーズを作っていました。 男性は放牧や木こり、あるいは農作業などに追われていたので、絞った乳の加工は料理として女性の手により仕上げられていました。このころは家庭で食べるという意味合いから極少量の牛乳だけで造られていました。
その後、効率のいい保存食として大型のチーズが作られ始めたのです。
エメンタールこうして生まれました。
この地域の人々の気質は300年前から変わっていないといわれます。
エメンタールの気質は革新的な考えを尊重している、いわば、改革のパイオニアでした。 今日においてこの地域の産業の一つに水溶性金属加工油を開発、製造する化学企業があります。 これはかなりレアな工場ですが掘削、平削り、研磨などといった金属加工が行われる場合に必ず利用されるもので、今や世界でもトップクラスの業績です。
このほかにも中小企業が点在し、エメンタールの産業をチーズ以外で支えています。 実は彼らには仕事に根気良く取り組む伝統があり、まばらに点在する農場に住んでいた時期から自分で問題を解決するよう強いられてきたという歴史があるのです。
チーズについても同じで、少ない人口であってもより多くの人々に喜ばれるチーズ作りをとエメンタールを作ったのでした。
さらにこのチーズをプロセスチーズにしたこともその革新の一つです。 たまたま生まれたチーズフォンデュ。 食べ残ったチーズを保管していたところ幾度も火を通し保管を繰り返しても食べられる、しかも日持ちするということから偶然にもエメンタールによる製品化に成功わけです。 当然アメリカではこの手法が認められ世界にスイスのエメンタールを知らしめるきっかけになったのでした。
グリュイエール
余談ですが映画『エイリアン』のデザイナーがこの地の景色に魅了され城を購入し、ちょっとしたアミューズメント的なバーを作りました。
それほどの景色とはアルプスの頂がそびえ、のどかな田園に深い針葉樹の森が広がる、おとぎ話にでも出てくるような景観です。
この地にチーズをもたらしたのはフランスです。 それは歴史の中でかつてこの地が15世紀までフランスの統治下だったためです。
大型チーズの総称としてグリュイエールと呼びあるいは、この地を統治していた伯爵、蔓(グリュ)の紋章を持つ伯爵グリュイエールとその地域の人が呼ぶようになったのです。当時は税金の変わりに大型のチーズが国に納められていたのです。
硬質のチーズができて、この種のチーズすべてにグリュイエールと呼ばしめたのも有名です。
後に、スイスとフランスの国境が分かれるようになりましたが、チーズは分かれることがなかったのです。
二つの国で同じ名前のチーズができてしまいました。 フランスがもたらしたチーズゆえにフランスでもオリジナルを主張する。 この地は統治こそされているが国はスイスであるがゆえにスイスが原産であると主張する。 こうした互いの主張を解決したのがブランド保護の法でした。
AOPとAOC
ヨーロッパではチーズを守るための努力がなされています。 それは生産者を守ることとブランドを保持することが目的です。 その一つにAOPと呼ばれるものがあります。EU統一の原産地呼称保護というものです。 この保護法をグリュイエールは2001年にスイスで取得させました。
一方フランスでは独自の原産地呼称保護としてAOCがありグリュイエールを、六年後の2007年に認定させたのです。
しかし、あくまでもスイスのチーズが原点であり特色もこの地で作ったことの限定が評価されたので、フランス側のチーズでは“サクランボ大の穴が空いた有腔質”が明記されなければならないという規約が生まれたのです。
これにより双方の主張はおさまり大型のチーズとして栄え始めたのです。
スイスではこのチーズの誕生と発展をもとにチーズフォンデュの宣伝をしていきました。 今ではこのチーズをもってチーズフォンデュというレシピすら存在するほどです。
コメント