目次
始めに
小説を読みたいけど時間がない。そんな方は多いと思います。もちろん通勤や通学の時間を利用してさくっと読みたい方も多いでしょう。そんな方の為に今回は短編に絞って恋愛小説やホラー小説などをピックアップしていきたいと思います。
もちろん短編といってもかなり濃い内容でヘビーな読書家さん達も納得できるようなものを選び、同時にライトなユーザさん達にも読みやすいものをとも考えています。
ゆえに名作と呼ばれるものに限りますので、もしかしたらもう読了しているという方もおられるかもしません。しかしながら読了しているのであればこの記事を再読のきっかけとしてもらえればと思います。では始めていきたいと思います。
おすすめ恋愛短編小説
まずは、おすすめ短編小説から紹介していきます。
初恋温泉、吉田修一著、集英社文庫(カテゴリ:恋愛)
あらすじ……、表題作「初恋温泉」は何軒も飲食店を経営するいわゆる成功者の島田光彦とその妻である彩子の物語です。離婚を目の前に控えた光彦と彩子。彼らは離婚前に最後の夫婦旅行として温泉旅行に行く事となります。彼らの泊まった温泉旅館は「白雪温泉」といい、古風な温泉旅館。この旅館は古さ故か隣の部屋に声が漏れるのです。隣に泊まっていたのは別の夫婦でこの夫婦にも秘密があり……。
温泉を舞台とした短編恋愛小説。作者の吉田修一さんは2002年に山本周五郎賞と芥川賞を受賞した実力派の作家さんです。ちなみに芥川賞を受賞した作家さんは短命な方が多いのですが、吉田修一さんは『怒り』や『悪人』など映画化された作品を数多く手がけています。表題作の「初恋温泉」以外にも3篇を収録してあり、どれも人間の内面に深く斬り込むスタイルで書かれています。
心理描写が得意な吉田修一さんならではの名作と言っても過言ではないでしょう。タイトルを読むと甘酸っぱいお話なのかと想像される方も多いと思われますが、本短編集は逆にほろ苦い作品が多いです。ただし温泉というギミックがとてもよく生かされており、温かい気持ちは更に温かく、冷めた気持ちは温められる温泉独特のあの感じがする作品集となっています。今、心が冷めている方は白雪温泉にでもつかって温かい気持ちを思い出しましょう。
溺レる、川上弘美著、文藝春秋(カテゴリ:恋愛)
あらすじ……、本書の「百年」から。妻子あるサカキさんと不倫関係になってしまった主人公。彼女らは崖から身を投げて死のうと約束します。死んで2人の愛を永遠のものとしようとしたわけです。しかしながら死のうと言いだしたサカキさんは助かってしまい、主人公だけが死んでしまいます。サカキさんは悲しみながらも元の生活へと戻っていき、87歳まで生きます。寿命を迎えて死んだサカキさんは主人公の元へとは来ずに消えてしまいます。そうして100年経っても主人公の想いだけが残ってしまい……。
あらすじのように100年経っても残っている情念と聞くとドロドロしたものを感じさせますが、読後感はさらっとしており、読んで良かったと思える作りになっています。読み進める内にとても不思議な感覚に囚われていきます。様々な愛の形を知り、愛とはなんなのかという根源的なものに気づくでしょう。
川上弘美さんという作家さんは感想をまともに語ろうとすると途端に陳腐なるタイプの作家さんで、それでいてさらっと読めて印象には残るという不思議な作家さんです。文章もとても考えられており、綺麗という表現がぴったりの作品達です。一度お手に取って読んでみると川上ワールドにハマる事必至。是非ご一読を。
おすすめホラー短編小説
次に、おすすめホラー短編小説を紹介してきたいと思います。
美しい家、加門七海著、光文社文庫(カテゴリ:ホラー)
あらすじ……、少女が神隠しに遭い、いるはずのない子供達の笑い声が聞こえる。言い知れぬ恐怖に苛まれる少女は……、化け物屋敷と噂の友人宅で「私」は夢をみる。夢はいつしか「私」へと取り憑き始める(※表題作、美しい家)。雨の夜、路地裏でうずくまる影を見つける。それは雨粒がかたどったおぼろげな女性の輪郭だった。妖しい美しさに惹かれた男は……(※幻の女)。
1992年に『人丸調伏令』でデビューし、日本古来の呪術・風水・民俗学などに造形が深い加門七海さんの書き下ろし短編集です。心地のよいテンポと美しい文体が特徴的で、本作は恐怖というよりも不思議に重点を置いた作品集です。怪奇蒐集家らしく実体験を交えた作品が多い七海さんですが、今作は完全オリジナルの創作ホラーです。
全体を通してとても幻想的でありながら思わず涙ぐんでしまう作品も収録されています。読み終わった後に涼やかな気分になれるのは秀逸と言わざるを得ません。決して恐怖だけに終始する事無く、一風変わった幻想的ですらある趣がとても気持ちいいです。ぐいぐいと物語に引き込まれる筆力には圧倒されるでしょう。もし興味を持ったのであれば是非ご一読を。
ついてくるもの、三津田信三著、講談社文庫(カテゴリ:ホラー)
あらすじ……、表題作の「ついてくるもの」から。ある日、高校二年生の「私」が学校の帰り道、目の端で鮮やかな朱色を見つける。「私」は興味を惹かれ、朱色の正体を探る。すると朱色の正体は廃屋に飾られたおひな様だった。しかしどの人形も同じ箇所を傷つけられた人形達。その中でひとつだけ無傷の人形があった。「私」はお姫様を助けねばと思い立ち……。
三津田信三さんが見聞きした怪談をまとめたホラー短編集。7つの怪談を収録しており、非常にバラエティ豊かなラインナップとなっています。三津田さんは読んでいて「不安」になる作品こそ珠玉であると語っており、今作も読んでいて後ろが気になる作りになっています。
読み進める内にじわじわと心を苛まれる作品達は、まさに「不安」の極地であり、美しくも不気味な作品達の虜になるのは必至です。いわゆる日本的な怖さと恐ろしいものの正体が分かった時のドキドキ感は半端ないので未読の方は是非。
まとめ
どれも名作と呼ばれる作品達です。空いた時間で読むには惜しいとさえも思えるのではないでしょうか。しかしながら短編集のいいところは1冊全て読了できる時間がなくても短時間で読めるところだと思います。
なので今回ピックアップした作品達を空いた時間に読んでみて作者さんに興味を持ったのであれば彼らの長編にも手を出してみるという形で読んでみてはどうでしょうか。無論、長編には長編の良さがありますし、短編には短編の良さがあります。どちらを選んでもきっと楽しめるのではないでしょうか。
ではまた機会があればどこかでお会いできればと思います。草々。
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