アドラー心理学の基本と活用のヒント!尊敬と勇気づけでよい人間関係を築くポイントを紹介!



アドラー心理学の人間関係について

オーストリア生まれの精神科医アルフレッド・アドラー(1870~1937)によって創設された「個人心理学」を、わが国では「アドラー心理学」とも呼んでいる。アドラー心理学は、アドラーの死後も理論面および実践面で、いっそうの発展を遂げ、今日に至っている。

「アドラー心理学は、実際のところ、対人関係の心理学である」

アドラーはこのように述べて、「よい人間関係」を築くことを、アドラー心理学の中心に据えている。

なぜなら

「人生のあらゆる問題は、結局のところ、対人関係の問題である)」

と考えるからである。

確かに人間関係の問題は、私たちの人生のあり方を大きく左右する。人生をよく生きるためには、よい人間関係をもつことが不可欠な条件である。もし人間関係がギクシャクしてうまくいかなければ、悩みや苦しみが生じるし、他の人を恨んだり憎んだりする。つまり幸福な生活は、よい人間関係のうえにこそ成り立つといえるのではないか。

ところが、よい人間関係を築くことは、それほど容易ではない。近年、「いじめ」や「虐待」が社会問題として大きく取り上げられ、「人間関係の希薄化」が指摘されたりしていることを考えれば、よい対人関係をもつことは、むしろ困難になっているのかもしれない。

アドラー心理学では、現代の対人関係の難しさは、民主的な状況下における私たちの生活のしかたに由来すると考えている。民主的な社会においては、すべての人が平等であり、それぞれがかけがえのない個人であり、みんなが意思決定に参加することを望んでいる。ですから民主的な社会にふさわしい人間関係は、「ヨコの人間関係」である。

ところが民主的な社会であるはずの現代でも、人が人を支配する独裁社会の伝統が、まだまだ私たちの意識や生活のしかたに残っているようである。親と子、教師と生徒、男性と女性、経営者と労働者などの関係を、依然として支配と服従の〈タテの人間関係〉〈上下の人間関係〉の中に置こうとする傾向が見られている。

タテの関係においては、上の立場にある者が物事を判断し、決定を行い、その結果を下の者に指示し命令しようとする。自分のほうが知識や経験が豊富なので、正しい判断や決定ができると考えているからだ。

このとき上の者は、下の立場にある子どもや若者たちが実際に感じたり考えたりしていることは、尋ねなくてもわかっていると思っている。上の者は自分の判断や決定は間違いないので、下の者はそれに従って行動すればよいのだと決めつけているのである。

今でもタテの関係で生徒を指導している教師は少なくない。

だが、この権威的なやり方をすると、下の立場におかれた子どもや若者は、自分たちが愛され大切にされているとは感じないものだ。上の者の指示に従って協力しようという気持ちにもなれない。上からの一方的な命令の代わりに、自分たちで問題解決に取り組むことができるときにはじめて、自分たちの能力を発揮し、自発的に協力しようとするでしょう。

これまで服従に甘んじていた子どもや生徒や女性たちが、平等な立場で意思決定に参加することが認められるようになってはじめて、民主的な社会にふさわしい(ヨコの人間関係)が可能になるといえる。

ヨコの関係が認められると、それぞれが自分の持ち場で、自分の役割を果たし、自分なりに責任を持とうとし、一人ひとりが自分の力で物事を決定し、主体的に行動しようとするからである。

アドラー心理学に基づく教育は、子どもが「自立した、自制心のある、勇気のある」人になることを目標にしているので、ヨコの関係を実現することが、何よりも重要な課題だ。

子どもたちは、現在の民主的な雰囲気を感じているし、自分は責任に応えることのできる人間であって、何をするかを自己決定できる人間として扱われるべきだと思っている。

人に依存し、人に頼って生きるのではなく、自分の力で、自分の責任で行動できる場、自立した個人同士が協力し合う場が確保されるときが、よい関係が実現するといえるのである。

よい人間関係を築くための2つのポイント

第一に、相手が誰であろうと、「お互いに相手を尊敬する」ということが、よい関係を築くための出発点になる。相互の尊敬がなければ、よい関係は築けない。

つまり相手が自分にとって目上の人や上司や年長者である場合はもちろんのこと、相手が子どもや赤ん坊であっても、あるいは部下や後輩であっても、相手を尊敬する態度や気持ちで接することである。

相手を自分と対等の人間として尊敬することには、相手に対する信頼が含まれていまるし、協力して課題を解決しようという気持ちも含まれている。

野田俊作氏は、よい人間関係の特徴として、尊敬、信頼、協力、共感、話し合い、平等、寛容、主張的という8つの条件をあげている。

野田氏のいう「共感」とは、相手の立場や考え方、相手の関心や生き方などに関心を持つということであり、アドラー心理学では、「共同体感覚」という言葉を用いている。つまり、他の人への関心、さらには他の人が持っている関心について関心を持つことである。

人間がパーソナリティを形成していく過程では、この「共同体感覚」と、後述の「優越性の追求」とが、2つの基本的な力学として働いている。

「共同体感覚」というときの共同体は、身近な家族や地域にはじまるが、精神的な成長と共に共同体の範囲は、学校、企業、国、アジア、人類全体、地球、宇宙へと広がる。さらに未来の人類や地球まで含んだ共同体である。

「共同体感覚」は、いわばその人の精神的な健康のバロメーターであり、教育では「子どもが彼の共同体感覚を少しでも豊かに発達させるように」ということを、絶えず念頭に置くようにする。

「話し合い」というのは、言葉を使って冷静に話し合い、みんなが共通の理解や合意に達するように努力するということである。そこにはお互いが自分の意見をしっかり主張すること、お互いの意見や考え方の違いには寛容であるべきことが関連してくる。

よい人間関係を築くための第二のポイントは、「勇気づけ」である。勇気は、人が何か困難なことに挑戦したり、何か課題を克服しようとしたりするときに、不安や躊躇する気持ちを乗り越えて、積極的に立ち向かっていこうとする心意気だ。

人間には「もっと優れたものになりたい」「価値あるものになりたい」「もっと上手になりたい」「できるようになりたい」といった強い欲求がある。

アドラー心理学では、それを「優越性の追求」と呼んでいる。

とくに発達途上にある子どもや若者は、勇気をもって新しい知識や技能を身につけ、自分の弱さを克服し、社会の福利に貢献できるように能力を伸ばして、成長しなければならない。

そのため、勇気は、子どもたちの健全な成長のカギを握っているのである。アドラー心理学では、勇気づけを子育てや教育の最も重要な教育方法として位置づけている。

植物に水が必要なように、子どもは絶えず勇気づけを求めている。勇気づけがなくては、成長することも、所属感を持つこともできない…。にもかかわらず、今日私たちが用いている子育てのテクニックは、子どもの自信を喪失させるようなものばかりである。

教育の方法として一般に普及している方法は、「ほめる―叱る」「ご褒美-罰」を用いるやり方である。

子どもがよいことをしたら「ほめる」「ご褒美をあげる」。悪いことをしたら「叱る」「罰を与える」。 アドラー心理学は「ほめる―叱る」の代わりに「勇気づけ」をする。

「勇気づけ」と「ほめる」とは、一見似ているが、「ほめる―叱る」のやり方は、上下の人間関係をもとに、上の者が自分の判断基準に基づいて下の者を評価し、ほめたり叱ったりする。下の者が上の者をほめたり叱ったりすることはない。

他方、「勇気づけ」は、ヨコの人間関係をもとにしていり。なので、子どもの言動から大人が勇気づけられることもあるのであり。例えば、子どもが鉄棒で一所懸命に逆上がりを練習する姿や、赤ん坊が何度も転びながらも歩行練習を繰り返す姿は、見る者に勇気を与える。それは、成長しようとして自分から進んで行う努力に、共感するからである。

また、子どもや若者が失敗したときに「ほめる」ことはないが、勇気づけは成功した場合だけでなく、失敗したときにも有効である。むしろ失敗したときにこそ、勇気づけが必要だ。

やる気を出して取り組んだのに失敗したとき、「努力したけど残念だったね」「もう一度やってみようか」「今度はうまくできるよ」などと周りの人からの勇気づけがあれば、失敗を乗り越えて、次の挑戦に向かうことができるのではないか。

ミーティングでよい人間関係を築く

尊敬と勇気づけを柱とするよい人間関係。その関係をグループ全体に広げることができれば、グループの構成メンバー全員が、それぞれ自分の持ち場で役割と責任を果たしつつ、グループの抱える課題や問題を、自分たちで協力して解決しようとするでしょう。グループの一員として、他のメンバーを信頼し、お互いに耳を傾け、お互いに理解し合うようになるではないか。

しかし、相互の尊敬と勇気づけに基づいて、グループ全体のよい雰囲気をつくり上げるには、それにふさわしい手立てを講じることが必要になってくる。

アドラー心理学は、家庭や学級や職場などのグループ全体をよい関係にするために、グループのミーティングを行うことを提案している。ただし、ミーティングのやり方が決定的に重要である。ミーティングのやり方を間違えると、特定の人だけが発言したり、自分の意見を他のメンバーに強引に押しつけようとしたりして、結局ミーティングは、つまらないもの、意義のわからないもの、非民主的なものになってしまう。

学校の多くのクラスで、学級活動がうまくいかず、十分にその機能を発揮できないのは、ミーティングのやり方がよくわかっていないからだと思われる。職場で現在行われているミーティングも、改善の余地が少なくないのではないか。

アドラー心理学のミーティングで大事にすることは、先にも述べたように、相互の尊敬と勇気づけである。

他のメンバーの好ましくない行動を批判したり、トラブルの犯人さがしをしたり、反省を促したりすることは、ミーティングの目的ではない。

ミーティングの目的と進め方

●ミーティングの目的

①それぞれのメンバーが感じていることや思っていることを、お互いに聞き合う

②それによってメンバーが自分自身のことを、またお互いのことを理解する

③メンバーがお互いに助け合い、自分たちで問題を解決する

●ミーティングの進め方

①コンプリメントと感謝の言葉を交わす

②前回の解決策について確かめる

③議題を話し合う

④これからの計画

ミーティングの進め方の①のコンプリメントとは「敬意」や「称賛」である。その日の(この1週間の)メンバーの行動や態度のうち「よかった」「素敵だ」「素晴らしい」などと思ったことを、お互いが発表し合う。一人がグループ全体を前に発表してもよいし、小グループやペアをつくり、そこで発表してもよい。

「大勢の前で発言するのは苦手だ」という人も結構いるので、そのような場合は小グループやペアにして、発言しやすいようにする。その時には、「シンク=ペア=シェア」「ラウンド=ロビン」などの「協同学習」の技法を用い、協同学習の進め方にしたがって行うと、うまく進行するはずだ。

また「ありがとう」「助かった」という感謝の気持ちをメンバーの人に表すことも大事なことだ。こうして反省や批判ではなく、建設的な言葉がグループの雰囲気を変えることになりる。ミーティングの時間が限られているときには、コンプリメントと感謝の言葉を交わすだけでも、お互いの理解と協力し合う関係を促すとよい。

③ではグループや個人の問題を議題として提起し、その解決策をみんなで話し合いを行う。このときも協同学習のやり方を用いて、ペアや小グループで話し合うこともできる。

必ずしもいつも全員で話し合う必要はなく、いくつかの解決策が提案されたら、どの解決策を採用するか、議題を提起したメンバーが選んだり、あるいは全員で決めたりする。

採用した解決策が有効であったかどうかは、次回のミーティングの②で確認するようにする。

ミーティングでもそうだが、相手に「問いかける」ことが大事なことだ。相手に自分の意見を伝えたり、説明したり、あるいは教えたりすること以上に、相手の気持ちや意見や考えなどを絶えず問いかけ、その返答をみんなで共有をするとよい。

問いかけることで、問いかけられた人は、「自分は大切にしてもらっている」「平等な関係だ」と感じることができるのだ。

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